Purple Rain / パープル・レイン
アメリカのスターだった殿下を世界のスーパースターにした記念碑的な作品。映画はアカデミー賞、ゴールデングローブ賞を、サントラはグラミー賞を受賞。700万ドルほどの低予算で作られましたが、その10倍ほどの興行収入を稼いだモンスター映画です。
あらすじ(ネタバレ注意)
キッド(プリンス)は、ミネアポリスのライブハウス、ファースト・アベニューで人気を博している若きミュージシャン。キッドの家庭は円満とは程遠く、父親の母親に対する暴力に苛まされていました。そんな彼が人生の苦難から一時的に逃避できる場所が音楽でした。しかし、バンドメンバーの提案を受け入れないなど、彼の独裁的なやり方はメンバーと一触即発の空気を常に醸していました。
バンドメンバーとうまくいかないのを「人生はビッチだ」と腹話術でモンキー君に喋らせて責任転嫁するキッド
そんな折、キッドは彼と同じく成功を夢見る女性シンガーであるアポロニアと出会い、間もなく恋仲に。ミュージシャンを志すアポロニアはキッドによる後押しをせがみますが、「汚い世界に足を踏み入れてほしくない」と考えるキッドは頑なに拒みます。しかし、ライブハウスにおける最大のライバル、ザ・タイムのモーリスは目敏くアポロニアをセクシーな女性グループとしてデビューさせてしまいます。激高したキッドはアポロニアに手を上げてしまいました…。
欲しがってたギターをプレゼントしてもらうキッド。この直後にアポロニアを殴ってしまいます。
二人の間が険悪になったと同時に、キッドに二つの不幸が襲いかかります。プライベートが影響して演奏が荒れており人気が落ち目になっていたため、集客が見込めなければクビだとライブハウスの支配人から言い渡されるのです。
そして、また母親に暴力をふるって自己嫌悪に陥った父親が自殺してしまいます…。父親は一命をとりとめたものの、落ちぶれた元ミュージシャンである父親の自殺はキッド自身の未来と重なり、キッドは自暴自棄に。
手当たり次第に地下室の備品を破壊しますが、一夜明けて冷静さを取り戻し、散乱した父親の楽譜を整理しはじめます。その後、ファースト・アベニューに登場したキッド。彼の身の上を知る観客は静まり返り、まるでお通夜のような雰囲気に。
そんな中、キッドは父親に捧げると呟き「Purple Rain」を歌い始めました。バンドメンバーであるウェンディとリサはお互いに顔を見合わせます。なぜなら、その曲は彼女らがベーシック・トラックを考えてキッドに採用を打診するも、けんもほろろにあしらわれていた曲だったからです。「Purple Rain」は自身の罪を紫の雨により浄化させる歌であり、キッドの贖罪でした。彼はその曲を最後に演奏するつもりで全力で演奏し、終わると同時に館外に飛び出します。
キッドの演奏を観て「これでええんや…」とばかりに無言で頷くマスター。
ファースト・アベニューの裏口から飛び出し、バイクのエンジンをかけようとするキッドは、鳴りやまない観客の喝采に気付きます。そして、館内に踵を返すのですが、そこにはすべてを受け入れてくれた人々の温かい出迎えがありました。そしてキッドは…。
みどころ
ライブ映画「Sign O' The Times」を除外すると、 プリンスの映画の中で唯一まともな脚本と演出です(笑) なぜならプリンス自身が監督しておらず、彼のエゴが抑えられているから。
キッドの父親役など、プロの俳優は一握りで、ほとんどが素人のミュージシャンによる演技。事前に特訓を受けたそうですが、それでも大根さは否めません。しかし、私はその点も含めてこの映画の魅力だと思うのです。ミネソタという知名度の低い土地で低予算で作られたB級映画が、世界中でヒットを記録するロック映画の金字塔になったことがその証左ででしょう。
映画としての作りの甘さに言及する自称映画好きの人に時々出会いますが、そういう人はこの映画の見方を分かってません(断言)。この映画は、世界的なスーパースターに昇りつめる直前の、エネルギーがほとばしるプリンスそのものを切り取った奇跡的な記録映画なんです。フィクションでありながら「プリンス劇場」というプリンスそのものの人生を投影したドキュメンタリーでもあるのです。小難しいことを言わず、プリンスが発散するエネルギーを全身で受け止めて、痺れて涙するのが正しいお作法。
さて、名シーンが多い今作ですが、一つ選べと言われたらやはりミネトンカ湖のシーン。前述のとおり、アポロニアはキッドに後押しを頼みますが、キッドはイエスと言いません。その理由は「ミネトンカ湖で清めていないからだ」とキッド。アポロニアは自分の背後にある湖に飛び込めという意味だと解釈し、裸になって寒中水泳よろしく飛び込みます。
冷たい湖ですから、心臓が止まりそうになってやっとの思いで岸に戻ってきたアポロニア。ほうほうの体のアポロニアに向かってキッドが一言。
「ここはミネトンカ湖ではない」
で、出たーw 鬼畜奴wwww
「君なにしてんの?」ぐらいの勢いでニヤニヤしながらです。この鬼の台詞を残し、裸のアポロニアを置き去りにしてキッドはバイクで立ち去ります。まぁ、それは彼なりのジョークで、そのあと戻ってきて謝るんですが、これでチュッと仲直りとか普通はしませんよね。
キッドは「止めようとしたんだよ」とか言ってますが、止めるタイミングが完全に手遅れだし、仲直りしたあとに「シートを濡らすなよ」と気の利いたジョークのつもりで神経逆撫で攻撃。プリンスじゃなければフルボッコは免れない所業。
余談ですが、この撮影の際に何度も飛び込んだアポロニアは低体温症になってしまったそうです。夏に撮影してあげたかったですね…。