Under The Cherry Moon / アンダー・ザ・チェリー・ムーン
ヨーロッパの古き良き映画をモチーフにした、全編モノクロで撮影された映画。名作アルバム「Parade」はこの映画のサントラという位置付けですが、映画のほうはファンをもってしても「迷作」としか表現できない内容です。最低の映画を選出するゴールデン・ラズベリー省を受賞。
あらすじ(ネタバレ注意)
クリストファー・トレイシー(プリンス)はジゴロのピアニスト。「すべての女性のために生き、一人の女性のために死んだ」という映画のコピー(既にネタバレ)通り、通りがかった見知らぬレディのために花を買ってあげるようなレディコマシです。相棒トリッキーとともにフランスのリゾート地で、お金持ちのマダムといった獲物をモノにしていきます。
そんな彼らが目を付けたのが造船王の娘であるマリー。財産目当てで、クリストファーは彼女に接近することに。ちょうどマリーの誕生パーティがあり、親や執事が止めるのも聞かず、やんちゃなマリーは自らドラムプレイを披露(なんでやねん)。そのあとふと会場に目をやったマリーはある視線に気付きます。
なぜかクリストファーの周りから引いていく観衆。そして、映画では「ドドドドド、ドッド!」というドラムの音がBGMになり、お互い30秒ほど見つめ合います。もうね、いくらファンと言えどもこれを笑わずに見るのは無理というものです。プリンスのファンタジーさく裂もいいところ。普通はこんなんで一目惚れしませんよ~!と殿下に言ってあげたい。ぶっちゃけ、これだけ見たらもう十分じゃないですかね、この映画。
…というわけにもいかず。もう面倒なので途中は端折りますが、マリーが飛行機に乗ってどこかに行ってしまう直前、クリストファーは飛行場まで車をかっ飛ばして彼女をさらいます。プリンスによる車の運転シーンが多いのが裏の見どころでしょうか。そういえば、前作「Purple Rain」で乗っていたバイクは今作では一切乗りません。
で、さらったはいいけど、なんかビミョーな空気になって、サングラスかけて後部座席に引っ込むクリストファー。もうなんなの。
でもそのあとはまた良い感じになるというファンタジー。
二人がイチャコラしている最中、トリッキーはマリーの父親が手配した手先にボコられます。とばっちり。ていうか、そもそもトリッキーもマリーを好きだったんですけどね。
誘拐事件ということで、警察が動き出す騒ぎに。マリーが潜む隠れ家にボートで移動するクリストファー。しかし、すんでのところで海上警備隊っぽい人に撃たれてしまいます。いや、これぐらいで発砲しないでしょとか突っ込むのは野暮というもの。
マリーの腕の中で息を引き取るトレイシー。
その後…。
傷心のジェロームはマリーから手紙を受け取ります。彼亡きあと一人で頑張っているとのこと。ちょっと空気が和んだところで天国から「Mountains」演奏部隊が降りてきてエンド。
みどころ
大ヒットした映画「Purple Rain」とあまりにも違うのでびっくりする方も多いでしょう。これはアルバムでも同じですが、同じものを作りたくないというプリンスの矜持みたいなものでしょうね。
アイデアとして、モノクロのロマンティック・コメディという目の付けどころは非常に良かったと個人的に思うのですが、この映画の敗因は、プリンスが監督をしてしまったことです。最初はきちんとした監督を立てていたのですが、プリンスが映画監督のやり方をマスターしてしまったため、途中から主導権を握ってしまいました。結果、彼のエゴが出まくり映画としては殆ど破綻しています。映像が美しくてプリンスの動く姿を存分に堪能できるので、ファンは目の保養または前置きが長いミュージックビデオとして楽しめます。ファン以外の方は観ない方がいいです。
美しいけど、あり得ないシチュエーションの玉手箱
特筆すべき点は、プリンスのコミカルな要素が前面に押し出されていること。冒頭のやり取りではヴァンパイアのフリをするシーンが。これネタが分からなければ、なんかキメている変質者にしか見えません。
あと、やはり外せないのは「レカストー」でしょう。
"WRECKA STOW"と書かれた紙をマリーに見せて「この言葉知ってる?」と聞くクリストファー。マリーは当然「そんな言葉無いわ」と答えるのですが、クリストファーはしつこく何度も音読させてはトリッキーと大笑いします。なぜ笑われているのか分からないマリーは不機嫌の極み、しまいには「レカストー!」と大声で叫びます。その後「サム・クックのレコードはどこで買う?」と聞くクリストファー。
マリー"…Record store." (ゥレカストゥ)
チャンチャン♪
コメディではあるけど、コメディじゃない箇所で笑いを取ってしまうという不本意な映画ですが、プリンスらしくて私は好きです。また、 自らの死を描き、それを自ら悼む演出は当時苦笑ものでしたが、今となっては涙を誘われてしまいます。