プリンスがエイズを発症していた? - 噂の真相
プリンスの死後に拡散されたフェイクニュース
2016年の4月21日にプリンスが亡くなり、6月初頭に公式報告が発表されるまでの間、プリンスの死因について様々なニュースが流れて情報が錯綜しました。最初の一両日はスターの早過ぎる死を悼む記事ばかりでしたが、間も無くセンセーショナルさを求めて一部の報道は過熱していきました。「プリンスの死因はエイズだった」という説はその期間中にタブロイド紙が捏造、または金目当ての自称関係者が騙ったものです。根拠は後述しますが、これらの記事は虚偽であることが証明されています。
結論:プリンスはエイズではなかった
プリンスはエイズ(後天性免疫不全症候群:AIDS)を発症していませんでしたし、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)にも感染していませんでした。なぜなら、プリンスが感染/発症していたことを報告する公式な資料は存在しないからです。これにて論破完了と言いたいところですが、念のためフェイクニュースの要点とそれに対する反駁の根拠を以下にまとめました。
ニュースの内容と、それが嘘であることの根拠
- プリンスは90年代半ばにHIVに感染していた?
その時期にHIVに感染しているのであれば、1996年に結婚したマイテと2001年に再婚したマニュエラらの元妻もHIVキャリアの可能性が高いはずですが、そのような事実はありません。マイテはプリンスとの間に一子もうけていますし、二人ともプリンスと別れた後は再婚しています。
- エイズを発症していたため死亡時の体重は約36kgだった?
このゴシップニュースが出たのは検視結果の公表前でしたが、事実と異なります。公開された正式な検死報告書によると、死亡時の体重は112lb(約50kg)であり既往歴にも言及がありません。参考リンク:プリンスの死因について
- 宗教上の理由により治療を拒んだ?
プリンスが信仰していたエホバの証人はエイズの原因となる輸血は否定していますが、エイズそのものに対する薬物治療は否定していません。
- プリンスは自身の死を悟っており身辺整理を始めていた?
プリンスが自身の死を悟っていたとすると、遺書が一切用意されていなかったことに対して説明がつきません。死後の遺産相続に関する混乱を鑑みると身辺整理をしていた可能性は極めて低いです。
- 証言したのは自称『親しい友人』であり素性は明かされていない
匿名の「親しい友人」による発言の信憑性については、論を俟たないところかと思います。
情報の発信源はナショナル・エンクワイアラー
拡散している情報の源はスーパーマーケット・タブロイドの代名詞でもあるナショナル・エンクワイアラー(National Enquirer)紙です。セレブリティをターゲットにしており、センセーショナルで部数が取れそうであれば裏も取らずに煽りや誇張に嘘で固めたトンデモ記事を娯楽として出す、下級国民向けの大衆紙です。
過去には、ケイトリン・ジェンナーが男性に戻るという記事や、ニール・パトリック・ハリスの破局という虚偽のニュースを掲載したことがあります。さらにシェールが間も無く死ぬという予言を数年間主張し続けていました。LGBTの人をターゲットにして攻撃すると、アメリカ保守層の中でもインテリの対極にいるあたりがウハウハ喜びそうなので、いかにもという感じですね。
日本のニュースサイトが犯した罪
同じタブロイドが発信する記事でも、例えば「私は宇宙人の子供を妊娠した」という内容であれば誰も信じませんが、中途半端にリアリティを持たせたフェイクニュースなので拡散されてしまっている状況です。
さらに、現地のタブロイド紙が書き立てるだけなら「OK、今回のはまぁまぁだな」で済みますが、そのソースを翻訳して紹介している日本のニュースサイトやブログの罪は計り知れません。ソース元の信憑性を知らない閲覧者は疑うこともなく「事実」として受け入れるからです。以下はFacebookの某アカウントの投稿とレスからの引用ですが、特にコメント欄は内容を確認せず鵜呑みにしている人だらけです。まぁ、ニュースサイトに載っていたら、普通の人は信じますよね。
このように、ナショナル・エンクワイアラーが発信したフェイクニュースは、日本のニュースサイトやブログ、SNSで「事実」として拡散されてしまいました。一度発信された情報は修正されることもなく、まるでポイ捨てされた空き缶が土に還らず車道の端に転がり続けるかのように、今なお無責任にインターネット上に漂い、心ある人々が悲しんでいる状況です。
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さいごに
エイズは誰もが罹患する可能性のある疾患です。差別は論外ですし、罹患は不名誉なことではありません。もし、プリンスがエイズに罹患していたという証拠が出れば事実として受け入れます。わざわざ本稿でプリンスのエイズ説に対して反論した理由は「エイズが不名誉」だからではなく、「事実ではない」からです。例えばこれがエイズではなく、盲腸で死んだというニュースだったとしても同じように反論したと思います。
なお、エイズ/HIVに対する治療法は進歩しており、感染者の予後は良くなっています。様々な病気にまつわる差別は歴史の中で繰り返されてきました。21世紀に生きる文明人として、正しい知識を持って偏見が繰り返されることは絶対に避けないといけないと思っています。
最後に、エイズに苦しむ人達への理解を支援を示すレッドリボンを示させていただきます。エイズ予防情報ネット:レッドリボンについて