バイオグラフィー:紫に染まった世界
プリンスの人生を映画化?
プリンスのキャリアにおいて重要な節目となる映画出演が、現実のものとなりつつありました。実際のところ、プリンス映画出演の依頼は「1999」ツアーの頃から浮上していました。彼のような謎に満ちたカリスマは、映画化には持ってこいの逸材だったに違いありません。
脚本家にウィリアム・ブリンを起用し、プリンス自身のアイデア・メモにも推敲を重ね、脚本が作成されていきました。プリンスの自伝的内容という骨子はあれど、内容は二転三転しながら仕上がったようです。
また、出演者の殆ど(殿下とその配下)が、演技面ではド素人だったため、演技指導などのレッスンも極秘裏に繰り返されていきました。
ビッグバンの前触れ
ギターのデズ・ディッカーソンが、プリンスのバックバンドであるザ・レボリューションを脱退、代わりにウェンディ・メルヴォインが加入。いわゆる「黄金時代のレボリューション」の顔ぶれが揃うことになります。
当時プロとしての経験が無かったウェンディは、幸運にも1983年8月3日にファーストアベニューで行われた伝説のライブで初デビューを果たします。
ベネフィット目的で行われたこのライブでは、多くの新曲が披露され、その中の数曲のライブ音源は、後述するアルバム「Purple Rain」のベースとして使用されています※。このエピソードが物語るのは、今まさに登りつめようとする若きアーティストが湛えるエネルギー量の凄さでしょう。日の出の勢いとはよく言ったものです。
※「I Would Die 4 U」、「Baby I'm A Star」、「Purple Rain」
紫の猛攻
プリンスのキャリアを代表するアルバムの1つ、「Purple Rain」が1984年にリリースされます。映画作成などの事情があり、プリンスとしては珍しい2年のインターバルをおいてのリリースでした。全米No.1曲の、「Let's Go Crazy」、「When Doves Cry」ほか、ヒット性に溢れる曲で満ちたアルバムでした。同アルバムは、全米のチャートで半年もの長きに渡って1位の座をキープし続けることになります。
余談ですが、このアルバムに収録されている「Darling Nikki」の卑猥歌詞が、時のお偉いさんの耳に止まり、史上初めてアルバムにお馴染みの警告シールが貼られる運びとなったそうです。今でこそ普通に貼りまくられているシールですが、当時のプリンスがいかに過激であったかということを物語るエピソードです。
世界中に降り注ぐ紫の雨
映画に先立って発売されたアルバム「Purple Rain」が劇的な成功を収める中、遂にプリンスの初出演映画「Purple Rain」が公開されました。
【あらすじ】
地元のクラブ、ファースト・アベニューで定期的に演奏を行うバンド、ザ・レボリューション。そこそこ人気を博していたが、フロントマンであるキッド(プリンス)のワンマンぶりに対してバンドの中では不協和音が軋む。
そんな折、同じくミュージシャンとしての成功を望む女性、アポロニアと恋仲になったキッド。ライバル・バンドのザ・タイムとの確執、アポロニアとの喧嘩、両親の不仲(ついには父親の自殺未遂に到る)、クラブからの解雇通達を経て、キッドは…
世界中で絶賛され、史上最高のロック・ムービー(この言い方は嫌いですが)とまで称されました。 評論・興行成績ともに未曾有の大成功を収めたことで、プリンスの地位は一気に雲の上へ。
頂点に登りつめたあとは、必然的に多くの衆目に晒されることになります。
映画にも出演した巨漢のボディガードは、パフォーマンスの一環として常にプリンスと同行しました。もともと他人に媚びることが一切なかったプリンスですが、その不遜さは妬みを含んだ攻撃の的となります。例えば、受賞式に威圧的に登場したことはマスコミの餌食となりました。しかし、プリンスにとっては好都合だったに違いありません。人一倍小さいプリンスが、大男を連れていることは、誰の目にも印象的に焼き付けられました。耽美的な変人プリンス、高慢な小男、倒錯した天才。今では見ることのできない絵面ですが、確かにこれ以上ないほど効果的な演出だと思えます。
彼は、皆から愛されるのと同じくらい嫌われることで、不可侵の評価を強固なものにしていきます。
因みに一連の「Purple Rain」でプリンスは、オスカー賞とグラミー賞の栄誉に。また、シングル、アルバム、映画で同時に1位を獲得。これはビートルズ以来の偉業でした。
ライブ休止宣言
大ヒット作品を引っさげて行われたパープル・レイン・ツアーの終盤、プリンスは代理人を通じて、今度しばらくはライブ活動を行わない旨を公表しました。
その理由として挙げられたのは…
「梯子を探しに行く」
「4月に雪が降ることもある」
という謎めいた言葉だけでした。
当時のファンはさぞ怪訝に思ったことでしょう。
ご存知のとおり(?)、この謎の言葉の意味は後に発表される曲に因んだものでした。このような謎めいたアプローチを、プリンスは好んで多用するのです。
参考文献:
「プリンス大百科」ソニー・マガジンズ ISBN4-7897-0689-3
「A Pop Life」㈱CBS・ソニー出版 ISBN4-7897-0506-4
「Prince[1958-1994]」宝島社 ISBN4-7966-0859-1
「戦略の貴公子」blues interactions, inc. ISBN 978-4-86020-257-6