Welcome 2 America / ウエルカム・2・アメリカ
幻の未発表アルバムは10年の月日を経てなお新しい
Disc one
- Welcome 2 America
Welcomeと言う割には全然歓迎されている感じがしない、暗いイントロで始まります。それもそのはずで、タイトル曲でもあるこの曲が示すものはアメリカに対する痛烈な皮肉。重めのラインと女性シンガーのバッキングコーラスに乗って、当時のアメリカで人々が情報過多に晒されている実情を淡々とプリンスが語ります。こういう社会風刺は10年も経つと陳腐化しがちなのですが、2021年の今でこそかえってリアリティを増して伝わります。曲としても、無茶苦茶恰好良いです。
- Running Game (Son Of A Slave Master)
1曲目からの繋ぎも完璧な、哀愁のあるミッド・テンポの曲。こちらもメイン・ボーカルは女性コーラス勢。プリンスはコーラスで参加、終盤で絡みが多くなってきますが、全体的に控えめ。やはりプリンスは当時、これを自分の名義としてではなくバンド名義で出そうとしていたんじゃないかと思えてきます。
- Born 2 Die
タイトル曲の次に先行公開された楽曲。モーリス・ヘイズによると、カーティス・メイフィールドを意識して作られたとのこと。スムースでスモーキーな肌ざわりはまさにそれ。しかし内容は重たく、麻薬や売春の斡旋をする売人である女性に関する歌です。「人は皆、死ぬために生まれる」というのはよく使われる言い回しですが、この言葉を口癖のように使う主人公。後半の会話は歌詞カードに入っていませんが、海外の聞き取りによる歌詞サイトによると、恐らく主人公の女性が3階の窓から落ちるというショッキングな描写があります…。かなり聞き取りにくいので、聞き取り間違いでありますように。
- 1000 Light Years From Here
「Hitnrun Phase Two」収録の「Black Muse」でこの曲の一部が使われています(4:17あたりから曲調が変わるところ)。とは言えあちらの方は録音し直しているので、当然印象は異なります。お蔵入りした曲やフレーズを、他の曲で使いまわすことが珍しくないプリンスですが、こういうのは毎回ニヤリとしちゃいますね。ここから一千光年離れた理想郷、「ここ」もその理想郷になり得るというポジティブなメッセージが、爽やかな曲調ともマッチして心を揺さぶります。
- Hot Summer
2010年にミネソタのラジオ曲The Currentで公開された曲です。当時の記事でも言及しているように、実はまったくピンと来ていませんでした(←バチ当たり)。しかし10年経って聴いてみると、自分でも驚くほどスッと入ってきました。リヴを始めとする女性ボーカルが印象的な軽めの曲ですが、その軽さが心地良く、夏の定番になりそうな予感。「プリンスは冬に聴け」なんてコラムを書いている私ですが、考えを改めなければいけません。
- Stand Up And B Strong
ミネアポリス出身のバンド、ソウル・アサイラムによる楽曲のカバー。元曲はノイジーなギターとボーカルが印象的なロック・ナンバーですが、このバージョンはエリサ・フィオリロとプリンスのデュエット・スタイルで始まり、女性コーラス群が際立つ、マイルドなアレンジになっています。後半のキーボード・ソロからの盛り上がりが最高で、タイトルの通りポジティブな気分いっぱいになります。「1000 Light...」同様、くじけそうなときに自分を鼓舞してくれそうな曲です。
- Check The Record
一転してファンキーな曲。てっきりレコードの話かと思ってましたが、歌詞を見る限り、このRecordの意味は「記録」のほうですね。何故か私のベッドで寝ていた君のガールフレンド。記録を調べろというのはタイトル曲で批判した管理社会への意趣返し的な気もします。とても短く勢いのある曲です。
- Same Page Different Book
2013年に、何の説明も無く公開されました。関連リンク
ブートアルバムのタイトルになってもいるので、比較的知られていた曲です。こちらもファンキーで格好良いです。歌詞には唯一神や戦争のことなどが語られているので、恐らくキリスト教とイスラム教(旧約/新訳聖書とコーラン)を想定しているのではないかと。同じページを参照していたとしても、そもそも経典が違えば教義(前提)が異なるというもの。有史以来繰り返されてきた世界中の戦争や紛争は当然ですが、昨今のSNSにおける独善的な主義主張合戦にも当てはまるように思います。
- When She Comes
「Hitnrun Phase Two」にも収録された曲ですが、こちらの方が年代が古いので初期のアレンジかと推測されます。「HItnrun...」は全体的に過去曲をアレンジし直して、マイルドに洗練された統一感を出していますが、こちらのバージョンの方が即興で取られたようなライブ感もあり生々しいです。甲乙つけ難いですね~。
- 1010 (Rin Tin Tin)
ピアノのイントロにシンセが乗る歌い出しと、ファルセットが最高に恰好良いです。タイトルの数字はスピリチュアル系の人達にエンジェル・ナンバーと呼ばれているものですが、サブタイトルのRin Tin Tinは映画に出演したスター犬の名前です。ローンレンジャーやベートーベン、バッハの名前が脈絡無く出てくるので、思わせぶりな、いわゆるおふざけソングか、スピリチュアル系を揶揄したものなのかもしれません。
- Yes
これは…自然に体が動きます。最高のライブ/パーティー・ソング。こちらもメインボーカルはプリンス以外ですが、このベタな味が最高に気持ち良いです!「ワイ~、イ~、エ~ス!イェースイェース!」、これはプリパでも合唱ネタでしょう。私の好きな映画で「イエスマン」ってのがあるんですが、それを思い出しました。あらすじ: 何にでも文句付けて面倒なことをしなかった男が"Yes"以外言ってはいけないというルールに従った結果…。
- One Day We Will All B Free
プリンスのキャリアを通じて歌われてきた「自由」に関する歌が、このアルバムの最後を飾ります 。常に自由のために戦ってきたプリンスですが、ここで歌われる自由というのは、抑圧されてきた黒人に対するもの。プロテストソングらしからぬ曲調ですが、歴史から真実を学ぶことで精神的に自由になるべきだという啓蒙的な意味も込められているように思います。ゴスペル調の曲と未来志向の歌詞が素晴らしく、不穏な音で始まったこのアルバムを最高にポジティブに締めくくります。
Live At Paisley Park – December 31, 1987 (Blu-ray)
"Welcome 2 America"ツアーの一環として開催された"21 Nite Stand"。2011年4月28日にLAのThe Forumで開催された模様がフル映像で収録されています。バックを固めるNPGも充実の面子で、ゲストでレディシも参加。ライブ中にも発言していますが"Real music by real musician"の面目躍如。
撮影された年代が新しいので、過去に出された映像の中でも群を抜いて画質が良いです。ジョン・ブラックウェルの前にセットされているカメラだけピントが合っていないのかボケ気味ですが、ご愛敬。過剰な編集も入っておらず、冒頭始まるまでかなり待たされます。でもそれが実際にライブに来ているかのような臨場感があって良いのです。あとは、ドルビーアトモスなどの音響効果にも対応。設備が整っている環境だとよりリアルになるはず。
細かいけど嬉しいところでは、 アドリブで歌詞を変えて歌ったときやMCに字幕が出るるのが非常にありがたいです。ライブでプリンスが"Do you miss me?"とか短いフレーズを喋った時は「いぇぇぇぇぇス!」と全力でレスポンスを返すのですが、長い文章になると何を聞かれているのか分からず「…hんjmkぅえーぃ…」と急に失速する日本人あるあるへの特効薬です。
収録曲
- Joy In Repetition
- Brown Skin (India.Arie cover)
- 17 Days
- Shhh
- Controversy
- Theme From “Which Way Is Up" (Stargard cover)
- What Have You Done For Me Lately (Janet Jackson cover)
- Partyman
- Make You Feel My Love (Bob Dylan cover)
- Misty Blue (Eddy Arnold cover)
- Let's Go Crazy
- Delirious
- 1999
- Little Red Corvette
- Purple Rain
- The Bird (The Time cover / Prince composition)
- Jungle Love (The Time cover / Prince composition)
- A Love Bizarre (Sheila E cover / Prince composition)
- Kiss
- Play That Funky Music (Wild Cherry cover)
- Inglewood Swingin' (version of Kool & the Gang's Hollywood Swingin')
- Fantastic Voyage (Lakeside cover)
- More Than This (Roxy Music cover)