028:ビューティフル・ストレンジ
プリンスのドキュメンタリー映画「ビューティフル・ストレンジ」(原題:Mr. Nelson On The North Side)が、プリンスの誕生日である6月7日に封切られます。三年前に拙サイトpartymindのニュースで同映画を紹介した時は、指を咥えて予告編動画を見ているだけでしたが、よもや日本で上映される日が来るとは夢にも思いませんでした。まずは、実現に向けてご尽力されたアルバトロス社の皆様に、深く感謝申し上げます。
今回、光栄なことにアルバトロス社から試写の機会を与えていただきました。しかし、視聴後、ただちに筆を執ることはできませんでした。左腕の骨折(個人的な事情で恐縮です)による不自由さもありますが、この映画の素晴らしさをどう伝えればよいか、悩んでいたからです。
個人的な感想
プリンスの死後、様々なドキュメンタリーが制作されました。本作は、プリンスの華やかな栄光だけを賛美するものでも、苦難に満ちた挫折や葛藤を描くものでもありません。いわんや、下品なゴシップ目線の低俗作品でもないです。この作品は、プリンスという人物を形成した社会的背景を順序立ててトレースしているのが特長の一つと言えます。アメリカにおける黒人文化の成り立ち、公民権運動、ミネアポリスの情勢、コミュニティ。これまで語り尽くされた、幼なじみのアンドレ・シモン宅での居候のエピソードさえも、それらの背景と相まって、独特の深みを感じさせるものとなっていました。カンヌ・ワールド・フェスティバルで最優秀長編ドキュメンタリー賞を受賞したのも、無理からぬことです。
そして本作は、プリンスと仕事をしたことのある人やファンへのインタビューを中心に構成されますが、それらはプリンスの恐るべき努力の才能や功績だけではなく、風変りな人格、時折見せる底抜けの優しさも浮き彫りにします。まさにビューティフル・ストレンジ。
私がこの映画を観ていて、何故か連想したのは、ニール・カーレンが著した「プリンス FOREVER IN MY LIFE」です(著者は本作にも出演しています)。同著では、プリンスという人間の生々しい側面が語られ、まるでステージの楽屋を覗くような発見がありました。本作は同著ほどには赤裸々ではないにせよ、プリンスが「プリンス」となる、重要でリアルな過程が映像を通じて追体験できるものになっています。プリンスがなぜ生涯、故郷のミネアポリスを離れなかったのか。その答えも、本作を観ることで垣間見える気がするのです。
最後に
今回試写で拝見しましたが、私は地元神戸の映画館にも足を運ぶつもりです。プリンスにまつわる映画が上映されるというイベントは、それだけで全国のプリンスファンの心の拠り所になります。それは各自の心の中に住まうプリンスに会うことができるからに他なりません。本作でプリンス自身が映されるシーンは多くありませんが、人々の証言を通じて、愛すべき彼のするどい眼差しや、はにかむ様子が想起されるのです。 願わくは我々ファンだけでなく、この作品をきっかけに、プリンスに興味を持つ人が一人でも増えてくれれば…と夢想しながら、筆を置きたいと思います。
2024/5/5
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